香代は、麻美子とつないでいた手を離すと、
船台に掛かっている脚立を掛け直してから、
登り始めた。
「彼女みたいに、脚立を登れる?」
麻美子は、脚立を登る香代の姿を明子に見せ
ながら、聞いた。
「どうして、お姉さんのヨットに私が乗るん
ですか?」
「え、どうしてって、明子さんは、うちのラ
ッコのヨットに配属されたのよ」
香代は、麻美子とつないでいた手を離すと、
船台に掛かっている脚立を掛け直してから、
登り始めた。
「彼女みたいに、脚立を登れる?」
麻美子は、脚立を登る香代の姿を明子に見せ
ながら、聞いた。
「どうして、お姉さんのヨットに私が乗るん
ですか?」
「え、どうしてって、明子さんは、うちのラ
ッコのヨットに配属されたのよ」
「はい」
麻美子は、香代の手を引きつつ、明子のこと
をラッコが置かれている船台まで案内した。
「これが、うちのヨット。船名はラッコって
いうの。これから明子さんが乗って、ヨット
のことを習うヨットです」
麻美子は、明子に説明した。
「これ、お姉さんのヨットなんですか?」
「うん、そうね」
麻美子は、明子に答えた。
挨拶した。
「あ、あの、こんにちは」
明子は、少しドキドキしながら、目の前の女
性に挨拶した。
「それじゃ、これから乗る私たちのヨットへ
行きましょうか」
麻美子は、明子に言った。
「私たちのヨットって何ですか?」
「え、クルージングヨット教室にヨットを覚
えにいらしたのでしょう?」
は少しドキドキしていた。
「松下明子さん」
「はい」
教壇の前まで出てきて、再度自分の名前を呼
ばれたので返事した。
「あなたの配属はラッコさんね」
先生は、自分の横に立っている女性のことを
明子に紹介した。
「こんにちは」
麻美子は、先生に呼ばれて出てきた明子に、
「松下明子さん」
教壇の先生が呼んだ。
「はい!」
明子は、急に呼ばれて、少しびっくりしたよ
うに返事した。
「前に出てきてください」
返事はしたけれども、席に着席したままだっ
た明子に、先生は声をかけた。
「あ、はい」
席を立って、教壇の前へ向かいながら、明子
「まあ、そんなに長くは続かないとは思うけ
ど、しばらく預かってあげてよ」
「わかりました」
麻美子は、松浦さんに頷いた。
「え、大丈夫?」
香代が、麻美子の袖を引っ張って、松浦さん
との会話が終わってから小声で聞いた。
「大丈夫よ、隆は私が決めたことにはNOと
は言わないで応援してくれるから」
麻美子は、香代に耳打ちした。
「クルーとして役立てるかはわからないけど
せっかくクルージングヨット教室に来てくれ
たんだし」
「そうですよね」
麻美子が、松浦さんに頷いた。
「うららでも良いんだけど、うららは、あの
通りのレース艇でしょう」
「そうですね、うちでも良いですよ」
麻美子は、松浦さんに答えた。
「助かるよ」
「午前中、教えた時も彼女の反応が、なんと
いうか障害があるってわけでは無さそうなん
だけど、少し頭の回転が鈍いみたいで」
「そうなんですか」
「クルーとして、普通にヨットへ乗せるのは
どうかなって感じの子なんだけど」
「松浦さん、さすがお医者さんだけあって、
そういう子もわかるんですね」
「まあ、俺は医者といっても歯医者だけど」
松浦さんが、麻美子に言った。
るが、泣くことは無かった。
「麻美ちゃんさ、彼女のことをラッコで預か
る気はないか」
松浦さんが、ショートヘアーの女の子のこと
を心配している麻美子に聞いた。
「え、別に良いですけど」
麻美子は、松浦さんに答えた。
「いや、俺が午前中の学科の講師を担当した
んだけどさ、その時の彼女の反応もだけど」
松浦さんが、麻美子に話した。
「もう、おまえにはロープは結べないから、
結び方覚えなくても良いよ」
男子生徒は、もうショートヘアーの女の子に
結び方を教えることを諦めていた。
「あんな言い方したら、あの子が泣いちゃう
じゃないの」
麻美子は、ショートヘアーの女の子のことを
心配していた。
でも、その女の子は気が強いのか、うまく結
べずにロープを持ったままオロオロしてはい
のも憚れたので行けなかった。
「だから、さっきから、そこは上から通せと
言っているだろうが!」
その男子生徒は、ショートヘアーの子が持っ
ているロープを掴んで、何度も同じことを教
えていた。
「上よね」
男子生徒に言われても、よくわからないよう
で、その女の子はロープを握ったまま手を上
手く動かせないでいた。
麻美子は呟いた。
「麻美ちゃんが代わりに教えに行く?」
香代が麻美子に聞いた。
「え、そうね」
香代に言われて、麻美子は本気で教えに行っ
てあげようかと思っていた。
それほど麻美子には、男子生徒の横柄な教え
方が見ていられなかったのだった。
ただ、教室のずっと前の方なので、ぜんぜん
見ず知らずのおばさんが教室を縦断して行く
生徒の声だった。
「え、どうしたの?」
麻美子は、声のする前の方の席を見た。
大声をあげていた男子生徒のすぐ後ろの席に
ショートヘアーの可愛らしい女の子がいた。
どうやら、その女の子のロープワークの覚え
が悪いらしくて、男子生徒は女の子のことを
怒鳴っていたようだった。
「何も、あんなに大きな声で怒鳴らなくても
良いじゃないの」
麻美子も、香代を連れて、教室の後ろの方に
立って、授業を眺めていた。
「そこは、上側に通すと、ほら、結べるよ」
授業は、ロープワークの実習中で、後ろの方
にいた生徒さんに阿部さんや中村さんはロー
プの結び方を教えてあげていた。
どの生徒たちも、必死に初めて結ぶロープの
結び方を実践していた。
「おまえ、バカなんじゃないの!?」
それは、前の方の席に腰かけていた若い男子
考え込んでしまっていた。
「おまえ、バカなんじゃないの!?」
麻美子が香代を連れて、クルージングヨット
教室の生徒を迎えに来ていた。
麻美子たちがクラブハウスに入ると、クルー
ジングヨット教室の授業は、まだロープワー
クの講習をしているところだった。
ステラマリスの阿部さんやアクエリアスの中
村さんも、生徒のお迎えに来ていて、教室の
後ろの方で実習が終わるのを待っていた。
先生は、ロープワークの説明を始めていた。
「ロープの前に、講義の事でわからないこと
が結構あるんだけどな」
先生にわからないと伝えて質問しづらく、聞
けなかった明子は、講義内容があやふやなま
まに、次のロープワーク実習に授業が進んで
しまったことに戸惑っていた。
「後で、職員室みたいなところに行けば、特
別に先生から教えてもらえるのだろうか」
明子は、先生のロープワークを眺めながら、
「そうですね。さすがに皆さん、優秀な方ば
かりのようで理解できているようですね」
先生も、最前列の男性やその周りの生徒たち
の表情を確認して頷いていた。
「では、続いて次へ進みたいと思います」
先生は、短いロープを手にしていた。
「皆さんも、この短いロープを事務局で教科
書と一緒に受け取られているかと思いますが
この短いロープを使用して、基本的なロープ
の結び方について実習したいと思います」
1人だけ手を上げることが出来なかった。
「どんなことでも構いませんよ、ここがわか
らないってところありませんか?」
先生が生徒たちに聞くと、どの人も皆、わか
らない箇所なんてありませんよって表情の人
ばかりだった。
「基礎的なことで、簡単なことばかりだった
かと思うので、皆わかっているようですね」
一番最前列に座っていた男性が、先生に頷き
周りも大きく頷いていた。
「今まで話した内容については、皆さんお分
りになられておりますよね。簡単な内容だっ
たと思うので、わからなかったって方も、さ
すがにいませんよね?」
教壇の先生は、生徒たちに聞いた。
「はーい、よくわかりませんでした」
と明子は先生に答えようかと思ったが、周り
の生徒たちを見ると、どの生徒たちも、講義
の内容は簡単だったみたいで、うんうんと大
きく頷いている人ばかりだったので、明子も
先生は、生徒たち皆に伝えた。
「後は、この仕組みを理解しながら、実際に
来週からは、配属されたヨットに乗りながら
身体で覚えていきましょう」
先生が言った。
「基本的には、午前中から今までお話した内
容を理解できていれば、後は実践でヨットを
操船していけば、簡単に乗りこなせるように
なりますから安心してください」
先生は、生徒たちに伝えた。
「私ったら、まだ初回だというのに、もう既
についていけていない」
明子は思った。
クルージングヨット教室は、まだ初日が始ま
ったばかりでまだ後、半年ぐらい受講するの
に、どうやって先生の言うことについていけ
ば良いのだろうと悩んでいた。
「ヨットの走る仕組み、基本的なことは以上
になります」
先生は、生徒たち皆に伝えた。
明子は、必死で先生の言うことを聞いてはい
るのだが、いまいちよく理解できない。
周りの生徒の様子を確認すると、うんうんと
先生の言うことに一つずつ頷いたりしている
人が多いので、他の人たちは皆、一応先生の
話すことを理解できているようだった。
「私、頭が悪いな」
明子は、授業が進むにつれて、どんどん先生
の説明から置いていかれてしまっていた。
「だめだ、私」
「左と右からヨットがやって来ました。こち
らは風上、こっちは風下なので、風上のヨッ
トが先を走っています。どうしても風下のヨ
ットは遅くなりますね」
教壇の講師は、ホワイトボードにわかりやす
いようにヨットの図柄を書いて、風を受ける
セイルの説明をしてくれるのだったが、明子
にはさっぱり理解できなかった。
「なんか難しいな」
明子は、先生の話を聞きながら呟いた。
当を食べていた。
天気が良かったので、明子はマリーナの外で
食べたかったのだが、隣の知り合った女性が
日に焼けそうで表に出たがらなかったので、
明子も一緒にクラブハウスで食事した。
「お昼は食べ終わりましたか?それでは授業
の続きを始めます」
教壇に先生が戻ってきて、クルージングヨッ
ト教室の午後の授業が始まった。
「風がこちらから吹いています」
「私、お弁当を持って来ていないので、なん
か買って来ますね」
明子は、隣の女性に言った。
「その先に、相鉄ローゼンがありますよ」
隣の女性に教えられて、明子はローゼンまで
お弁当を買いに行った。
「ただいま」
お弁当を買って、戻って来たときには、隣の
女性は既にお弁当を食べ終えていたので、隣
の女性とお喋りしながら、明子は1人でお弁
方が良いですよ」
隣の女性が、明子の持っているヨット教室の
教科書を開いて、明子に教えてくれた。
「はい、午後の授業までに復習します」
と明子は、隣の女性には答えたものの勉強し
て理解できるか自信が持てなかった。
「お昼どうしますか?」
「お弁当持って来たので」
隣の女性は、自分のバッグからお弁当箱を取
り出して、明子に見せた。
「そうなんですか。ヨットって風向きで走れ
ない事もあるのですか?」
「え、先生が何度も説明していましたよね」
隣の女性に言われたが、先生の話が頭に入っ
ていなかった明子には、女性の話も、先生の
話も、まるっきりちんぷんかんぷんで何も答
えられなかった。
「本当に全然わからなかったんですね」
隣の女性は、明子に言った。
「たぶん、この辺のところを復習しておいた
よくわかりませんでした」
明子は、隣の女性へ正直に白状した。
「なんか風向きによって、ヨットって走れた
り走れなかったりする向きがあるらしいんで
すよ、そのことを私は初めて知れました」
隣の女性は、明子に言った。
「そうなんですか」
「ええ。先生に教えられて、風向きで走るこ
とを知れたのすごく勉強になりました」
女性は、明子に答えた。
「それでは、午前中の授業は、ここまでにし
ましょう」
先生が言うと、午前中の授業が終わった。
「午後は1時から始まりますので、それまで
には、ここへ戻って来てください」
先生が教壇を後にした。
「授業の内容わかりましたか?」
明子は、隣の知り合った女性に質問した。
「ええ、一応はわかりましたよ」
「本当ですか?私、全く何を言っているのか
「それでは、本年度のクルージングヨット教
室を開講します」
教壇に上がって来た男性が言って、ヨット教
室は始まった。
このマリーナの理事長だという男性からの挨
拶が終わると、今年のクルージングヨット教
室の担当だという男性が教壇に上がり、授業
が始まった。授業が始まったので、明子も隣
の女性とのお喋りを辞めて、先生の話に集中
していた。